学校行事とは、存外頻繁にあるらしい。
子どもはおろか、家庭と無縁の自分は想像だにしなかったが、月に1回くらいは学校関係を理由にヴェデッドが休みを取るようになった。
(そういえば、授業参観を理由にK・Kが作戦放棄しようとしたことがあったな……)
あのときは無理矢理懐柔したが、悪いことをしただろうか。
今になって、少し後ろめたくなるスティーブンである。
それに加え、これまた思っていた以上に頻度の高い、子どもたちの体調不良。
ひどい時は、お互いに感染症を移し合って、半月も休むようなことまであった。
ますます、今までどうやってこなしてきたのかが謎である。
その結果、
「おはようございます、スティーブンさん!」
思っていた以上に顔を合わせるようになったのが、この子犬のような笑顔である。
「おはよう、アリシア。今日は、ヴェデッドは?」
「ガミエルくんがお熱出しちゃったそうです。昨日の夕方、電話がきて――子どもってどうして、病院閉まってから熱出すんでしょうね? 今回はエミリーダちゃんにうつらないといいんですけど……」
アリシアが入るときは、念のためヴェデッドの休み理由を聞くようにしている。
後日、ヴェデッドにもそれとなく確認を取っているが、今のところ齟齬は無い。
(まぁ、さすがにそんな簡単なミスはしないだろうが)
それとなく様子を見ながら、コーヒーを取りにキッチンへ入る。
すると、アリシアがコンロの手前で、よっ、ほっ、とリズミカルに手を動かしているのが見えた。
――何をしているんだ?
卵の焼ける香ばしいにおいに誘われて手元を見ると、見慣れない小さな四角いフライパンに、卵液を薄く広げて焼いて、くる、くると器用に巻いているところだった。
「なんだい、それは?」
スティーブンが思わず聞くと、アリシアが、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにニヤリと笑う。
「んっふっふ~ これは、遠い異国の料理――ジャパニーズ・卵焼きでーすっ!」
ちょうど巻き上がったそれを手際よく切り分け、皿に盛って、じゃーん!と効果音をつけながら、高く掲げて見せてきた。
「へえ、日本の料理か。よく知ってるね」
「わたし、両親が日本出身なんです。祖父母が生きていた頃は日本で暮らしていたんですよ。日本ではお弁当の鉄板料理なんです」
「そのフライパンは?」
「これ、卵焼き専用のフライパンなんですよ。その名も『玉子焼き器』! 日本人、卵焼き好きすぎですよね」
「わざわざ持って来たの?」
「はい! 今回は前日にお仕事入るのわかっていたので、スティーブンさんに食べていただこうと思いついて、持ってきちゃいました!」
無邪気に説明する彼女に、思わずスティーブンの頬が緩んでしまう。
気持ちまで、緩んでしまいそうになる。
食べて食べて、と口に出さなくても丸わかりなアリシアの表情に促され、一口食べる。
「……どう、ですか?」
あれだけ自信満々だったのに、口に入れた途端、少し不安げな表情になる彼女に、
「うん。おいしいよ」
とスティーブンが告げると、またパアァと笑顔を輝かせ「お気に召したなら、また作りますね!」と、軽い足取りで仕事に戻っていった。
ヴェデッドが気に入るのもわかる。
屈託のないアリシアと接していると、つい、フッと肩の力が抜けてしまう。
(いい子過ぎるんだよなぁ……)
彼女の人の好さを、そのまま受け入れてしまえれば楽なのだが。
そのまま信じ込むには、不審な点が多すぎるのだ。
例えば、この街のBGMと化している様々な事件のニュースをテレビで流し見していると、
「……あれ?」
「どうかしたかい?」
「今のニュース、確か一昨日も似た事件がありましたよね。先月も。
どれも、体長1メートル未満の人型異界人が犠牲になっていました。何か関連性があるのでしょうか……」
「……」
確かに、この3つの事件に関連性は、ある。さらに言うなら、メディアに上がっていない水面下ではさらに3つ似た事件が起こっており、同一存在によるものとみてスティーブンたちが調査しているところである。
一般人の観察眼ではない。
なんなら、アリシアの言葉がきっかけで、真相に近づけたことすらある。
(時々、勘の良さがプロ並みなんだよな)
「さて、それじゃあ行ってくるよ」
身支度を終えて玄関に向かうと、靴の汚れが一片も無いことに気が付いた。
昨日は、なかなかに[[rb:手こずった > ・・・・・]]から、帰ってきたときにはかなり汚れていたはずなのだが。
「靴、磨いてくれたのかい?」
「はい、大事な仕事道具ですもんね」
「……」
ヴェデッドとアリシアには、会社勤めだと説明してある。
「サラリーマンは、靴で値踏みされるって聞いたことあるので!」
(うーん)
詰めが甘い。
甘すぎるのだ。
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